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問題解決プロセスの本質を語る1/3

目次

指導的立場にある人ほど問われる問題解決力

なぜ、いま問題解決力が問われるのか

今回は、あらゆる仕事の目的となる「問題解決」について解説したいと思います。
この記事は主に営業職の方向け、あるいはこれから営業職を始める方向けに発信している情報ですが、この「問題解決プロセスの本質」は、あらゆる業界に所属する職種のビジネスパーソンにとって重要な情報であると確信しています。
ビジネスパーソンが所属する会社は顧客の問題を解決するために存在します。顧客は、困っていることを解決したい欲求から、モノやサービスに対価を支払い取引が成立しています。

近年は、「意味付けの取り組みが重要であって問題解決であるソリューションを標榜する時代ではない」、などという論調が多いのは承知しています(その違いや考え方はここでは論じませんが)。
しかし、どの時代の事業においても「基底部となるスキル」は、「問題解決能力」に帰結すると確信しています。ハウツー本で手っ取り早くスキルを知ることは全否定しませんが、そればかりでテクニックに偏重し、表層的な考えの人があまりにも多いことに危機感を覚えています。考え方を会得しないと応用がきかなということを訴えたいのです。

「なにが言いたいの?」「話聞いてましたか?」「ちゃんと理解して答えてます?」といった炎上している場面をビジネスの現場で見聞きしたことはないでしょうか。
典型的な基礎力不足です。本人の問題もあろうかと推察しますが、かみ合わない議論になる原因の多くは指導力不足が招いていると私は考えます。こうしたスキルは後天的でかつ現場の実践で培うものであります。
しかし現場のマネージャーは、目の前のタスクに追われ対処療法が常態化しているのが実情ではないかと思います。また、後輩に「この感覚をどう教えたらいいのか?」と、立ち往生しているのではないかと思うのです。
したがって、この記事はどちらかというと現場で指導的役割のある方向けに読んでもらいたいと願っています。
このスキルは、履歴書に書けるような資格とは違い、目に見えないものですが、身につけたら一生涯役に立つスキルです

さて、本記事の分量は大変多いので、目次の気になる項目から読み進めていただいても問題ないですし、最初から順に読み進めていただくことももちろん結構です。できれば、一冊の本を読む感覚で進めていただけると記憶に定着しやすいのではないかと思います。

問題は知覚することから生まれる

問題解決とは、問題とみられる事象を正しくとらえ、解決策を打ち出し、得られた課題を提案し実行することにほかなりません。
なんだそんなことか、それなら私生活でもうまく実践していますよ、と思われるかもしれません。
しかし、その品質やスピードによって得られる結果の大小が変わってしまうので、プロセスを見直す必要性を訴えたいのです。

職場における日常を例にしたいと思います。ランチに出かけたはずの同僚がコンビニのおにぎり一つ持ってオフィスに戻ってきたとします。
その同僚から「食べられなかった」と言われた場合、さまざまな原因が想定されます。
「お金がないなら貸そうか」と、お金がないことが原因だっと解釈する人もいるでしょう。
またある人は、「時間をずらしたらどうか」と、昼時の混みあう飲食店が原因だと解釈することもあるでしょう。
はたまた「どうして食べてこなかったの」と、その理由を尋ねて状況を探ることもあるでしょう。
人によって違った捉え方をするこれらの現象は、「人の知覚や論点整理が異なる」ことの証左なのです。
具体的な問題解決の品質を高めていきましょう。

問題解決プロセスの要素

問題解決の取り組みは、大きくは「問題を発見」し「問題の論点(本因)を決め」、「解決策を設定」する。そして、設定された「課題への取り組む」ことです。問題と課題はイコールとは限りません。
それぞれの内訳を含めてまとめると以下のようになります。
前提として述べますと、プロセスというものは便宜的に表したものであって、順序はどうでもいいのです。また、一方通行ではなくどの段階においても行き来するということを補足しておきます。

①問題発見
 ・現象の把握、仮説設定、論点整理
②本因(論点)確定
 ・論点確認、情報収集、分析、論点の構造化、全体で確認
③解決策
 課題設定、検証、解決策決定
④課題への取り組み
 ストーリー策定、(プレゼン、実行)

優れた問題解決は知覚・洞察・論理で決まる

問題解決能力が高い人は、例外を問わず「論理的思考」が優れています。しかし後天的な能力ですから、実戦において考え方や行動様式の型を習得することができます。この「論理的思考」は、社内での議論においても最大の武器になることは間違いありません。
なお、直観力が大事だという論調がありますが、基本はあくまでも論理的思考であり直観はその片輪であるといえましょう。自身の直感知を他人に伝えるには、根拠の提示とそれなりの伝え方が必要だと思うのです。

洞察力や直観力を高めるには、年単位の期間を要するためこの記事では限定的な補足にとどめたいと思います。
いずれにしても、知覚、洞察、論理の総合力が問題解決の大きな柱になることは間違いありません。

次に、限られた少ない情報で、いかに精度の高い仮説を立てられるかがビジネスにおいて重要になる観点です。
注意が必要なのは、問題解決プロセスにおける情報収集や分析作業は、より確かな仮説を補完するものに過ぎないということです。
また、虚心坦懐に物事を見定める態度と目的観を堅持した軸を持つことが求められます。それは認知バイアスを補正するのに役立ちます。
最後は、行動です。行動に移さなければ何の効果も得られません。ビジネスにおいては経済的価値を得るためには結果を出す、あるいは他人に行動を促すという点が重要でしょう。
具体的には、各プロセスの項にて説明したいと思います。

問題解決プロセスは問題を発見することからはじまる

現象を虚心坦懐に把握する

顧客から与えられた問題であれ、自身が発見した問題であれ、それを問題だと認識することからすべてのプロセスは始まります。優秀なビジネスパーソンは、顧客のわずかな変化や違和感がある言動を逃すことなく捉えることができます。

このわずかな変化や違和感は、自身のデータベースである経験や知識を参照していますから、知覚力と言い換えることができます。なお、ここで述べる顧客とは問題解決の依頼主を指すこととし、それが社内の上司でも顧客として表現します。

「そもそも、それは本当に問題なのか」、と疑う批判的思考する態度も重要でしょう。問題解決に携わる人はこの「疑う癖」を習慣として身につける必要があります。「疑う対象」は人格ではなく、事象のとらえ方のことであることはいうまでもありません。

すべての現象には本質があります。それは、結果である現象は原因である本質から表層化しているといえます。その本質をデスクであれこれと書き出して考えるやり方は、スピードを求められるビジネスにおいては不利です。
では、現象を知覚すると同時にいかにして本質を素早くとらえることができるか。優れた人は知識や過去に経験したパターンを認識し類推している「ヒューリスティックス(経験則)」と創造的な発想である「クリエイティビティ(アート・ひらめき)」、そしてWhy?(なぜと問う)・So What(だからなんなのか)を紐づける「ロジカル(論理)」の三つのアプローチを使い分けているのです。

「左脳が大事」とか「これからは右脳思考だ」と、どちらかに偏重するのはステレオタイプです。両方大事なことはいうまでもありません。それぞれの機能は相互補完しているのですから。私たちが普段から目にしている「さも尤もらしいパワーワード」には気をつけてほしいと思います。

ナビゲーションがない乗用車で配達することを例にして補足します。
「ここは先週通った道だ。たしかこの交差点と右折すれば・・・」と過去の体験をもとに導くのがヒューリスティックスです。素早く答えが出せる半面、実は似たような道で間違う可能性を孕んでいるのが注意点です。これをパターン認知バイアスといわれています。
「金曜日のこの時間帯は高速道路は渋滞するはずだが、空いている気がするから上でいってみよう」というのがクリエイティビティです。不確実性が高い状況で発揮する思考ですが、根拠や説明を求められると厳しい弱点があります。
停車し地図を広げて、「ここにコンビニがあるから・・・」と明確に周辺環境と突き合わせて確実に進むのが、ロジカルの長所であり時間を要する難点があります。

ベテラン配送ドライバーは地図は補足的に確認する程度に留めるはずです。
同じように、ビジネスにおいても本質を捉えて仮説を形成するアプローチはヒューリスティックスとクリエイティビティなのです。問題解決のプロセスを無意識に行っているわけです。
ただし、注意が必要なのは、いかにベテランであろうが、状況は環境依存が大きく多くの人がかかわるとなるとその分不確実性が高まります。ヒューリスティックスのみに頼っていると思わぬ認知バイアスによって判断を誤ることにつながります。私たちの脳は常に省エネモードになりがちだからです。脳は最もカロリーを消費する部位なのです。私たちの身体は危機管理上、余力を残こしながら動く仕組みになっていると言われています。だから認知バイアスは避けられないことと解釈し、その回避パターンを仕組み化することで精度を維持することができます。

「現象は虚心坦懐に捉える」ということを意識的に覚えておくことをおすすめします。虚心坦懐とはスーパーフラットあるいはゼロベースと言い換えることができます。
松下幸之助氏は、「素直な心」を座右の銘としていたようです。これは「とらわれない素直な心」とも言えますし、ベテランになればなるほど「虚心坦懐に物事をみる目」という姿勢を心がけていたと解釈できます。

営業の現場では、「五感で感じろ」と同行した先輩によく指摘されました。客先を訪問する際、エントランスの雰囲気やすれ違う社員を見ると社風がわかり、影響を及ぼしている人物像を描くことができるようになるのです。
現場を見よ」ということです。「一次情報をつかめ」ということです。テクニックではないのです。なぜならすべての物事や組織は相対的で相互依存的で常に変化しており、教科書どりに捉えると思わぬ落とし穴があるのです。
どんなに些細な事柄でも見逃さないという観察レンズとも言うべき知覚力が問われるのです。

「問題を定義する動き」は、直感でとらえて洞察し、論理や情報でその脆弱さを補っているとイメージしていただければと思います。

仮説で事象の本質にアプローチする

なぜ先に仮説を立てて問題を定義するのか

では、虚心坦懐に事象をとらえたら、どのように本質にアプローチするのかというと、「なぜ」なのかと問うことから始まります。
本質は「現象から洞察した結果」です。仮説は「その時点での仮の答え」ですから、「まだ確定していない問題の本質」ということにほかなりません。
解き明かすための問題である「問い」が本質ではなく枝葉であれば、その問題解決は「筋が悪い」という評価になります。議論のテーブルでは「話がかみ合わない人」というレッテルを張られてしまいます。解き明かす段階になってから修正しても、その期間や労力は無駄になります。一方、本質を捉えた「問い」であれば、多少解き方が間違っていても修正することは容易でリソースのロスも軽微に抑えることができます。

ある事業家が若き日にエジプトにあるギザのピラミッドを見学した際、「ムチ打たれる奴隷によって建造されたものとは思えない、嫌々ながら働かされてできた建造物が4500年間も原型をとどめられるはずはない」、「これは高度な技術をもった専門集団が情熱をこめて作り上げたに違いない」と同行者に語ったと言われています。
今でこそ、ピラミッドはナイル川の氾濫によって職を失った農民を中心に公共事業として労働した見方が主流です。しかし当時は、ピラミッドはファラオの墓であり権威の象徴が目的と広く知られていました。したがって、建設には酷暑のなかを奴隷が石を運んでいるイメージでとらえられていたのです。
近年の調査では、労働者の宿舎と考えられる遺跡には、ビールを飲んだ形跡やファラオへの賛歌を刻み付けた文字が後年に発見されているようです。
それはそうと、建造から4500年後の今なお観光客を集めている事実には感嘆します。

ともすれば、ネット検索や書籍などの情報から答えを得ればいいではないかと考えられがちです。今どきはLLMを代表とする人工知能に聞けばいいではないかというご意見もあるかと思います。
もちろん、問題次第ではその方がよい場合もありますが、一律になんでも回答を求め自身で考えようとしない姿勢に私は危機感を覚えるわけです。

自然環境と同様に、人間社会は縁に触れることが因となり結果(事象)につながっています。会社組織などはその典型例といえましょう。その組織に属するということは、その文化に自身が影響されるとともに文化に影響を与えています。同じ組織におけるメンバー間もそれは同様です。
つまりは、現象は常に相対的であり、常に変化して物事が進んでいるということになります。
よく有名企業の組織論的なモノや成功している企業の営業戦略、といったハウツー本を鵜呑みにして自社の組織運営に反映させるということを見聞きします。軸を持たないモノマネは非常に危険だと考えます。なぜなら、成功している企業には「その企業ならではの文脈がある」からです。その「文脈」を無視して一部分を取り入れても、仕組みの定着や継続的な成長は限りなく薄いのは自明の理です。土壌に合わない作物は育たないのです。

営業ともなれば、競合や協力会社も加わり、時間的(スピード)にも空間的(広がり)にも総合的な最適解というものを求められます。他社の動き方で自社の打ち手も変化することを考えるとすべての案件は相対的と捉えるべきで、客観的な答えは存在しないといえます。常に案件を文脈として認識し登場人物を鮮明にイメージすることをおすすめします。こういった判断を人工知能が担うことができるか、私は将来にわたっても非常に懐疑的です。

本題に戻すと、仮説とは今ある知識や情報で問題の本質に迫ることであり、本質に迫るための基本は「なぜ」を問うことであるといいました。
この、「なぜと問う」ことが仮説するための第一歩という事実は、トヨタ自動車が社内で教育している「5回のなぜ」として有名です。「なぜ」と5回問うことで本質に迫れるという考え方です。
例えば、今月利益が減ったという飲食店があったとします。利益が減少したのはどの程度か?いつからか?を考えたうえで、売り上げが減ったのか?仕入れが高騰したのか?といった「問い」が生まれます。
つまり、売り上げ減という「事象」がそのまま「問題の本質」に至るケースは極めて少ないことをまず知ってください。
「売り上げが減った」のであれば「客数が減ったのか?」それとも「高単価が減ったのか?」、
客数が減ったのであれば、「それはなぜか?」と「問い」を深堀していく。川の源流をさかのぼるように、支流があればそのさらに上流へと及んでいくことになります。

この「問題の本質」のことを「論点」という場合が多いようです。この「論点」を論理的に思考すると整理がつきやすいでしょう。

とりあえずロジックツリーとMECEをマスターすればよい

この図は、「ロジックツリー」と呼ばれるフレームワークの一つです。この階層構造を脳内に定着させることで、より速く「論点」となる「問題の本質」を浮かびやすくなります。
客数減と単価減は同じ階層に並列している一方で、利益と売上は階層が異なります。下位階層を明らかにするには「なぜ」と問うことで本質を求め、上位階層を求めるには「だから」と問うことで事象や具体案を求める、とうい考え方になります。階層間は因果関係として成立します。ロジカルシンキングとは、この因果関係を読み解くプロセスを意味します。
また、同じ階層内は「MECE(ミーシー)」である必要があります。不足がなく重複された状態ということです。モレがありそうなら、とりあえず「?」として残しておきます。
ロジックツリーとは、問題の要素を明文化し幹、枝、葉に例えて構造化したものです。
このロジックツリーをイメージして問題を分解して考えることで、構成要素を分析しやすくなります。さらには解決策につながる洞察を得やすくなります。慣れない場合は、紙にペンで書いて視覚化する癖をつけることをお勧めします。

本質を明確に特定しないと、表層的な「枝葉」を解決することになります。対処療法のように、あとで別の形で問題が表面化するケースがあらゆるところでみられます。「時間がないからとりあえず〇〇することで様子をみよう」を繰り返すことで、解決しているように見えても事象に振り回されているのが多くの組織の実態です。根本を見直す作業は工数がかかりますが、再発した際を考えるとしっかりと根っこである本質に向き合うことが長期的にみると効率がよいと考えます。

ついでに覚えてほしいフレームワークは「MECE(ミーシー)」です。MECEとは、「不足なく、重複ない」という情報整理の型です。これをはじめに明かすことで、重複による無駄な作業を防ぎ、後で漏れていた事柄を考え直す時間的ロスを防ぐ意義がある。「ほかに原因は考えられないか」「具体策は重複していないか」と視覚的にチェックする際にも有効です。
ビジネスは限られた経営資源で他社と競争をする必要があるため、はじめにこの「不足・重複」を整理しておいた方が効率的だからです。型を自分のものにできれば、「プレゼンする段階で論点の不足が発覚」し、「へとへとになりながら調べなおす」が、「期日に間に合わず」に「ダメ出しを受けて失注」する、といったことにはならないはずです。

フレームワークは多数存在しますが、基本はこの「ロジックツリー」と「MECE」ですので、これさえ頭の中で瞬時にイメージできればまずは十分といえます。
問題の切り分けがスムーズになると、必然的に洞察も容易になります。

情報集めと分析に頼るのがダメな理由

未知のものや問題に直面したとき、ネット検索から始めていないでしょうか。

もちろん聞いたことがない言葉や仕組みは当然調べるのですが、それ以上の解は自身で考えるという癖をつけていただきたいということなのです。次々と情報を集めていくと脳内が情報で満たされてしまいます。そうなる前に、意識の領域が確保されている段階で「考える」という行動パターンが大事だと強調したいと思います。

調べていれば答えは見つかるのではないかと思いがちですが、情報収集をするにも「当たりをつける」ことによって調べる必要のないものはあらかじめ除外できます。スピードが断然違ってくるわけです。
当然ながらMECEにするには、あらかじめ最低限の情報を知っておく必要があります。その情報とは、自社や競合含めた業界知識であり、製品知識などの予備知識なのです。

指摘をされないようにと、あれもこれもと情報を集めているうちに時間だけが過ぎていく経験をしたことがあると思います。
いつまでも選択肢を広げる情報収集によって、意思決定が遅れることは「負け」に直結します。情報収集や分析を網羅的にするのではなく、当たりをつけて必要最小限の情報で答えを出す、というのが仮説思考なのです。
つまり、問題を答えから考えることであり、最適解を最短で探る方法ということもできます。
「問題を分析してから答えを出す」のではなく、「答えを出してから分析する」と、答えありきで調べることを意味します。はじめに自分なりの答えを持つということです。ここで注意してほしいことは、始めに「立てた仮説に固執しない」ということです。確証バイアスとは、自分の仮説や信念に合致する情報ばかりを集め、反対する情報を無視したり軽視したりする認知バイアスのことです。したがって、仮説設定→情報収集→違和感を感じたら→仮説を再設定→情報収集、というように仮説は都度アップデートする必要があります。

仮説思考とは、脳内でロジックツリーのように問題の全体を構造化し、どの問題が最も重要であり、どこから手を付けて解決を図るべきかというような「筋」を見出すプロセスなのです。
経験を積むにしたがって、この「筋」がより「早くクリアに」見えてくるようになると思ってください。顧客の問題解決は、その顧客独自の文脈を有しています。したがって、まったく同じ問題は存在せず、唯一のものと言っていいでしょう。時間軸でみても状況は刻々と推移するわけですから、問題も形を変えてしまうでしょう。

ある日本人の音楽家が、幼少のころピアノの練習中に失敗したのでやり直そうとした。すると、それを見ていた指導者から「やり直そうとするな」「そのときの音楽はもう戻ってこない。演奏するホールや客層などの状況はおなじではないのだ」といわれたそうです。途中で立ち止まってしまったりミスをしても最後までやりとおすのだそうです。
ビジネスも同様に、途中で失敗をしても最後までその案件に携わることの重要性を感じることができます。たとえ失注しても全体の文脈からでしか、選択の分岐点が推し量れないと解釈できます。
顧客の時間軸と空間軸を推し量ると同じ状況は存在しないのです。

営業パーソンは特に、顧客の問題解決をすると同時に競合に勝つことが大前提です。解決筋を見出すとともに競合を意識した勝ち筋を設定する必要に迫られています。顧客の問題解決には情報の非対称性が求められ、競合に勝つには先を読む力が受注へとつながります。
その先見性と判断力はあらゆる場面で発揮できるスキルになりますが、その人ならではの「軸」の獲得には一定期間の実践が問われます。

BCGの元コンサルタントの内田一成氏は、仮説思考の3つのメリットを著書でこう記しています。「一つは情報洪水に溺れなくなる、二つは問題解決に役立つ、三つは大局観をもって仕事ができる」。
情報が少ないと不安になる気持ちはわかりますが、あれもこれもと集めすぎると結局どれを選択したらよいのかわからなくなります。

つまり、情報を網羅した状態では意思決定の速度も精度も鈍るのです。情報で満たされた状態で意識の領域が確保されていないと考える力は低下するといわれています。
店舗の商品棚に24種類を陳列した状態から6種類に絞ると購入数は6倍にも達したという実験もあります。「少ないことは良いことだ」ということです。オッカムの剃刀のように、「選択肢は絞れ。最小限にせよ」ということです。
少ない情報でもよりよい意思決定をするためには、はじめに仮説設定をすることが最も重要なポイントになります。

少し立ち入った話をすると、仮説設定で発揮される「知覚」「洞察」「意思決定」は主観が決定要素です。一方で、数字や事実を扱う「論理」や「情報収集」は客観が分析や検証における決定要素となります。
主観は、見る人が違えば解釈は異なります。また同じ人でも状況が異なれば、異なった捉え方をするものなのです。
なお、関係性から成立するすべての物事は、主観と客観は分化されるものではないというのが賢人の結論でもあります。

仮説でストーリーまで描く効果

仮説を立てたら、解決までのストーリーを大まかに描くことを先にすることです。全体構成である骨子を頭に描くことで違和感に気づきやすくなり、スケジュールを持てるはずです。
一般的なプレゼンにおいては、始めに事実や結論(what)を提示し、その理由(why)で根拠を説明します。最後に提案(how)で結びます。

本質を導くには「なぜ」と問いかけることが重要であると説明しましたが、解決策を導くには、立てた仮説である結論に対して「だったらなんなのか」を問うことによって当初の結論はより精緻になります。
では、その解決策は実現可能なものか、ノックアウトファクターはないか、どうすれば提案を合意できるかを踏まえながら組み立てていきます。もちろん、確証が持てない点はその都度分析することになりますが、それは必然的に必要最小限の作業で済むはずです。

調べつくした挙句に、実現が不可能であったとわかったらどうでしょうか。
まったくとは言わないまでも調査にかかる労力の分だけムダになります。チームメンバーの信頼を毀損し、大きな仕事をすることは難しくなるでしょう。
詳しい調査をする前にストーリー全体をイメージする中で、実現が困難であれば素早く方向を転換するればいいだけのことです。ですから、最初にストーリーをイメージして道筋をつけることがいかに重要な武器になるかがわかっていただけたと思います。

優秀なセールスパーソンは、顧客との面談中にこの道筋をつけるスピードと精度が高いのはいうまでもありません。
営業なら「絵を描け」と助言を受けたことはないでしょうか。営業はクリエイターであると確信しているのは、レッドオーシャンでゴリゴリ活動するのではなく、一歩先、半歩先んじる判断軸は芸術的な感覚に通じていると考えるからです。実際に絵画を描くことで感性を高めようとするビジネスパーソンは多いようです。

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