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問題解決プロセスの本質を語る3/3

目次

人を動かすストーリーを考える

良質な論点整理を行うことができたとしても、それが顧客に伝わらなければ意味はありません
食べてもらいたい料理を訴求するのに、「成分や材料を適正な配分で造るので食べてください」と宣伝するより、動画や画像を見せて「味を想像」させた方が”食べたい”となるはずです。

ここでは、採用されるための魅力あるストーリー策定について述べたいと思います。また、採用されるだけでは、問題を解決することはできません。実行されてはじめて価値が生まれることを念頭においてほしいと思います。
ポイントは、「何を言ったか」という点で策定したうえで、「誰が言ったか」を加えると情理のバランスがよくなると思います。

「理屈はよくわかった、でもやりたくない」という受け手の感情をどうカバーするか。また、「プレゼンターがいけ好かない」や「プレゼンターの社名を聞いたことがない」とう受け止めをどう克服すればよいかという視点でも説明したいと思います。結論すれば、論理構成を基本軸としながらも、情理と提案者のバックボーンが要素に加えることです。配分や強弱は受け手の思考性や風土に合わせて調整するものだとご理解いただければと思います。

過度な「よい見せ方先方」ではなく、こちら側が思い描く意図をそのまま受け手にイメージしてもらうためにはどのように組み立てるべきか、解決策が顧客にとって魅力的であり実行可能と受容されるにはどのようにすべきかを考えたいと思います

課題解決に必要なリソース(予算・工数・期間)と課題の波及範囲、複雑性に応じて進め方を変える必要があります。
この章では思考と構成の型を解説していきます。

事前確認|問題の大きさと複雑性から定義する

成立するプレゼンの目的は大まかに次のケースがあります。
調査報告で完結する
調査報告に加え議論が必要
調査報告+議論に加え決済が必要

調査報告から議論や決済に至るまで、双方向性が高いほど留意すべき要素が増え複雑になることがわかります。

事前確認|顧客の経営観を理解する

顧客が法人であれば規模に応じて多くの利害関係者が存在します。ポジションに応じて課題意識も多様といっていいでしょう。プレゼンのシナリオを構成する上で、顧客の思考や決済形式、意思決定に伴う組織文化をよく理解する必要があります。

主な概念はDMU(Decision Making Unit)と呼ばれます。DMUとは、意思決定単位で分析する型のことです。
組織には、受付窓口、利用者、起案者、決定者、承認者、影響力者、購買者が存在します。留意していただきたいのは、肩書と実際の役割は異なることがあるということです。
決定権者は最も重要なキーパーソンですが、実際は影響力者の意向をそのまま意思決定に反映させることもあるのです。あるいは、一人の人物が複数の役割を担っていることも珍しくありません。

決定者含む顧客の経営層は、一般社員とは異なる独自の経営観を持っています。その経営観を念頭に置いた提案にまとめることが必要です。視座の観点からいえば、一般社員が課内の最適化を優先する一方で、経営層は全部門の最適化が思考のもとになっているからです。
プレゼンの手配や流れなどのお決まり事は、顧客の経営観に基づく組織文化を反映さることを念頭に置いてほしいと思います。

経営層の指向性といっても幅広く捉えどころがないと思うかもしれません。
参考例として、経営資源の要素に対する向き合い方を分析してはいかがでしょうか。

個人資本企業資本
収入利益・資産
経験人材・組織
人脈社会的影響力

事前確認|顧客が保持する知見を確認する

これまでにない大胆施策としてプレゼンする際は、新しい概念を紹介したり聞きなれない専門用語を使いがちです。
一見するとフランクで大雑把なようでいても、実は大変緻密な考え方で現場の細部に詳しい経営者が多くいます。
なかには、難しい専門用語を並べると知的チャレンジを受けたと嫌悪されるケースもあるので要注意です。
キーパーソンの知識レベルや知的態度がどの程度か推し量るには、直接会話することが確実です。周囲からの情報はあくまでも補足情報として認識することをお勧めします。

なお、私の話で恐縮ですが、相手の発言の信用性を推し量るためによく使うテストを一つ紹介します。ブルシットテストと呼ばれるものです。
十分に知識がある得意領域の事柄を題材に、わからないふりをして相手に質問しその返答を観察するのです。
返答が自信たっぷりなのに全くの的外れであれば、その相手の発言は信用してはならないと判断しています。

「デジタル化」や「DX化」といった、機能や役割を示す言語が複数存在しますので、共通の言語表現をあらかじめ取り決めておくことも大変重要です。
資料に専門用語などの補足や注釈をつけるなど、情報配分のバランスをとることは大変重要です。明確に正しく認識されないと、誤った意思決定を助長することになるからです。
プレゼンテーターは、抽象的表現と具体的な補足説明を聞き手の反応を見ながら織り交ぜると間違いないでしょう。

共感と論理でプレゼンのシナリオを構成する

シナリオの基本構成

問題解決は論理が基礎であるため、よく知られているPREP法と呼ばれる型をベースに解説したいと思います。PREP法では、Point(結論)→Reason(論拠)→Example(実例)→Point(結論)となり、情動や行動を揺さぶる点に欠けることから、より明快かつ行動を促すために「if」と「how」を加えて解説したいと思います。
すなわち、PREIPH(プリーフ)です。Point(結論)→Reason(論拠)→Example(実例)→If(しないリスク)→Point(結論)→How(方法)

①Point(結論)

「やるべきこと」や「伝えたい核心」を冒頭に話します。このプレゼンで訴えたいことは何なのか、これから何のことを話すのかを簡潔に述べるとよいでしょう。
冒頭に結論となる論点を話すことで、聞き手の興味関心である「つかみ」を得ることができます。
新聞を購読しているならご存じかと思いますが、新聞記事には見出しと概要、そして詳細説明という構成になっています。これは、読者の購読時間や興味関心に応じて把握しやすいようにしているのが理由です。
見出しに興味がない記事の詳細を読むことはないのです。
新聞記事における見出しがこのPoint(結論)に当たると考えていただければと思います。抽象化して表現するようにしましょう。
聞き手が経営層になればなるほど結論を先に求める傾向があるので、簡潔にまとめて話すとストレスがないでしょう。

②Reason(論拠)

「その理由」を次に話します。なぜそれをやる必要があるのか、あるいはそれをしないとどうなるのかを話します。次に、「例えば〇〇ということです(Example )」あるいは「だから〇〇なのです(Point)」へと、結論につなげます。
数字やグラフなどを提示して論点の根拠となる情報を話します。使用するのは、可能な限り一次情報を取得するようにしましょう。
注意してほしいことは、「ファクト(事実)」と「意見・感想」をごちゃまぜにしないということです。

③Example(例)

「例えば」と切り出し、事例を挙げて具体を示します。「〇〇していませんか」「〇〇をすることができます」と、受け手である視聴者の身に置き換えてストーリーを描きます。危機に迫られない問題のテーマほど、どれだけ想像をさせることができるかが採用の決め手になります。

④If(しないリスク)

「もしも〇〇(結論)をしなかったら」と、解決策である提案を実行しなかった場合の不利益を訴求します。論理的な解釈は記憶から抜けがちですが、恐怖体験というものは、人間の生存本能によって残像は消えにくい仕組みになっているからです。ポイントは「〇〇までに」と期限を定めることです。「〇〇でに解決できなければ〇〇になる」と締め切りを認識してもらうことで行動のトリガーになるからです。スーパーマーケットにおけるタイムセールのような動機づけです。

⑤Point(だからする)

冒頭に話した「やるべきこと」を改めて訴求します。当初は他人事のように聞いていた「やるべきこと」が、具体例やリスクを想像した後に繰り返されることで「そうだね、そうだったね」と自分事として受け手に鮮明なインパクトを与えることができるのです。

⑥How(解決方法)

ここで受け手は「じゃあどうすればいいのか」と方法を模索しているところで、「具体的なすすめかた」を話します。
納得と共感を得るには、理想論ではなく「現実的な実践方法」と「大胆施策」のバランスが問われます。
実際の現場をどれだけ知悉しているかが、聞き手を本気にさせられるかどうかの分岐点になります。

プレゼンで留意するべき「あるある」

代替施策で地雷を回避

論点が伝わりなすべき理由もわかったが、「それでも実行したくない」という聞き手も一定数存在します。大半の理由は社内政治に起因するものです。
「このプランだと、気に入らない〇〇部門の〇〇だけが得をしてしまうではないか」という厄介な感情です。
問題は、それが意思決定にどの程度影響する人物かということです。意思決定に影響を及ぼすキーパーソンであれば、解決方法を見直す必要が生じます。
効果のあるプランはおのずと大胆施策になりますから、リソースが減る領域が生じるわけです。キーパーソンの反意が予測できる場合は、代替施策(BATNA)を補足説明するか極端なふり幅を押さえる言い回しも賢明です。

基本的には上記の順番で構成していただければと思います。
上級者は時間の尺度や内容に応じて順番や時間配分を変化させます。拒否反応を示される懸念がある内容であれば、最初に背景や理由を話し想定される拒絶を和らげた状態でやるべきことを話すとよいでしょう。

人を行動に駆り立てるものは情動である

基本構成において論理的な整合性がとれた状態であれば、理解されやすくなることは前項で説明しました。
しかし、基本構成はあくまでも骨子にすぎません。理解されても実行されなければプレゼンの価値はありません。
実行を促す「共感」を獲得する必要があります。ここでいう共感とは、受け手が自身の身に置き換えてイメージすることといえます。
ここで、基本構成の中がストーリーになることで共感を促進するということになります。
主な共感を促す要素として、「論理を強調」、「信頼性を強調」、「感情を強調」があります。

信頼性を強調するとは、プレゼンテーターである提案者が信頼できるか否かという点です。この人の話なら聞いてみようかと思わせることが重要です。
王者バイアスのように、話の内容よりも発信者の属性によってその正しさを判断してしまう傾向があります。「誰が言っているか」が信頼性に直結してしまうのはそのためです。
プレゼンの導入部において、プレゼンテーター自身の人柄や実績を盛り込むことをおすすめします。

感情を強調する理由は、人は論理だけでは動かないからです。
手っ取り早く人を動かす要素は、恐怖心や危機感です。
この施策を実行しないとどうなるのかと考える際、「会社全体の売り上げが下がる」、というより「自身がリストラ対象になる」ほうが受け手の危機感が強いことはいうまでもありません。

こういった切迫感を持たせて恐怖心を刺激し実行させる以外に、ストーリーテリングによって理想の状態をイメージさせる方法があります。
例えば、過疎地域にある新支社で異動の募集をする際、「満員電車から解放されて、自然豊かな環境で小さな子供と過ごす日常を想像してください。朝は小鳥のさえずりで起床し、真夏でも涼しく就寝できる…」などと問いかけます。
「イメージしたとおりの生活をを実現したい」、あるいは「この理想像を失う恐怖を回避したい」、という欲求になるはずです。これが実行を促すストーリーテリングの効果なのです。

また、帰属意識や社会貢献欲求を促すことも効果があります。
人は少なからず「善なるもの」を求めるものです。所属する組織に貢献することで自己肯定感が高まり、受け入れやすくなるでしょう。手っ取り早く組織全体の共感を獲得するには「外敵」を設定することです。

これらの感情を強調する要素は、プレゼンの後半部分に配分するのがよいといわれています。

流暢性は正しいと受け取られる

どんなに理路整然とした論理構成で、ストーリーも面白くても、プレゼンテーターが貧弱であれば「画竜点睛を欠く」と言わざるを得ません。ひとことで言えばそれは、「流暢性」です。視覚や聴覚などで流暢性を感じると、人は「正しいと判断しがち」になるというのです。
スピーキングの技能と言うのは一定程度身につけていただいて損はないということになります。

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