自治体を含む官公庁は民間企業と違い、受注するには契約に至るプロセスにルールや規則が設けられています。その詳細や注意点をしっかり把握した上で取り組む必要があります。準備を怠ったりルールを知らなかったりすると、受注できないどころか大きなペナルティを受けかねないからです。
最低限、どのようなポイントを押さえる必要があるのか。受注するために工夫するポイントを、ひいては攻略するための考え方を公開します。
なお、ここでは比較的身近に存在する地方自治体に焦点をあてて説明したいと思います。
官公庁を知る
官公庁とはどのような組織なのかをご説明します。
大まかには、国と地方自治体とその派生団体が対象になります。それぞれの組織が独立した予算を管理していることから、民間でいう会社と捉えて結構です。
どのような団体が存在しているかなど、運営の仕組みを具体的に説明します。
国
中央省庁やその外郭(独立行政法人、国立研究開発法人など)が予算元ですが、実際に発注するのは各部局単位になります。
例)国土交通省 関東地方整備局
文部科学省 初等中等教育局
地方自治体
47都道府県と市区町村がそれぞれ全国で約1700もの団体があります。
省庁と同様に地方自治体の団体においても、各部局が発注しています。
自治体といっても規模や運営方法も実にさまざまです。同じ業種業態でも規模や収益が異なる民間企業と同様に、人口や法人からの税収額、国からの交付金に応じて予算額が決まるため規模のバラつきは顕著です。
外郭団体
外郭団体とは、独立行政法人や研究開発法人などの特殊法人のことです。
これらすべての団体は、各省庁や自治体を母体をし予算が割り振られたり職員も出向して組織が構成されています
受注の方法
主に入札という方式で受注候補者を決めます。落札できたとしても、契約行為に至らないと受注することはできない形式になっています。
自治体における入札制度とは
地方自治体が発注する工事やサービスなどの入札手続きのことを指します。入札制度は公正かつ透明性の高い契約締結を実現するために導入されており、多くの自治体がこの制度を採用しています
一般競争入札
一般競争入札は、契約を希望する事業者が自由に参加できる入札方式です。一般的には、入札公告が自治体のウェブサイトや新聞などで公示され、希望する事業者は入札資格審査を通過し、入札書を提出します。入札金額が規定内において最も低い事業者が受注する場合が多いです。
指名競争入札
指名競争入札は、事前に特定の事業者を選定し、その事業者たちだけに入札の機会を与える入札方式です。自治体が定めた基準に基づいて、適格な事業者が限定されます。その後、選定された事業者たちは入札書を提出し、自治体はその中から最も優れた提案を選定する場合が多いです。
プロポーザル方式
プロポーザル方式とは、事業者が自治体に対して提案書を提出し、契約を締結する入札方式です。一般的には、自治体が要望する業務内容や品質、納期などを指定し、事業者はその要望に沿った提案書を作成して提出します。自治体は、提案書の中から最も優れた提案を選定し、契約を締結する場合が多いです。
随意契約
随意契約とは、入札手続きを経ずに契約を締結することを指します。ただし、契約金額が一定の金額以下である場合や、緊急を要する場合など、一定の条件が満たされる場合に限ります。入札手続きを経ずに契約が締結されるため、自治体側や事業者側の判断によっては、公正かつ透明性の高い契約締結を実現することができない場合があります。
自治体へ営業するうえで把握するべき基本ポイント
事業者登録から契約に至るまでの流れを知る
事業者登録は、自治体が発注する工事やサービスの入札に参加するために必要な登録です。自治体によって登録の方法は異なりますが、一般的には、自治体が定めた要件を満たした事業者が登録を申請し、登録審査を受けます。登録に必要な書類や手続きは自治体によって異なりますが、多くの場合、事業の種類や規模、実績などに関する情報が必要になります。登録が認められると、入札に参加することができます。
入札に参加するには、自治体が発表した入札公告に従って、入札書を作成し提出する必要があります。入札書には、業務の内容や工事の規模、価格、実績などが記載されます。入札書は、入札締切日時までに自治体が指定する場所に提出する必要があります。
自治体は、入札書の評価を行い、最も優れた提案を選定します。選定された事業者と自治体は、契約を締結し、工事やサービスの提供が開始されます。契約内容には、業務の内容、価格、納期、品質などが含まれます。契約が締結される前に、両者が合意した契約書を作成し、署名・捺印する必要があります。
自治体の仕事や予算組みのサイクルについて解説
自治体は、市町村や都道府県などの地方行政機関のことを指します。自治体が行う仕事には、公共施設や道路、下水道などの建設・維持管理、福祉や教育などのサービス提供、税金の徴収などがあります。
自治体は、毎年、市町村税や地方交付税などの税金や国からの補助金を受け取り、予算を編成します。予算は、自治体の行う事業やサービスを実現するための財源を確保し、事業計画の立案に活用されます。
予算の編成には、各部局が事業計画を策定し、総務部門などの中央部局が編成した予算をもとに、議会や市民の意見を反映させながら、自治体全体の予算を決定します。予算の決定後、各部局は予算に基づいて事業を実施します。
自治体の仕事は、年度ごとに計画・実施されます。通常、年度末には、次年度の予算編成が始まります。予算編成にあたっては、前年度の事業実績や予算執行状況などが考慮されます。
自治体が行う入札制度については、前述のように、入札公告が発表される時期や周期は自治体によって異なります。一般的には、年度の始めに各部局が予算を編成し、その後、入札公告が発表されます。入札に参加する事業者は、自治体が発表する入札公告に従って、入札書を作成し提出する必要があります。入札書の評価に基づき、選定された事業者と自治体は、契約を締結します。
自治体によっては、予算が不足している場合や、緊急性の高い事業が発生した場合に、随意契約が行われることもあります。随意契約は、通常の入札手続きを省略して、自治体が直接事業者を選定して契約を締結することです。ただし、随意契約には制限や条件がありますので、事業者側も注意が必要です。
自治体向け営業でよくある誤解
自治体向け営業の方法は決して特殊ではありません。もちろん契約に至るまでの過程で民間にはない形式がありますが、基本的なすすめかたに大差はありません。情報公開されている優良大手企業のようにイメージしていただければと思います。
事業者登録して入札に参加すれば落札できると思っている
ほとんどの企業で「事業者登録したものの、落札できたためしがない」のが現実です。
事業者登録できたから、パソコンで公示情報を検索して、ポチっと入札ですね。余裕っす。
新規参入の実績がない事業者が仕込みもしないで落札できるのはレアだよ。
ちょっと、何言ってるのかわかんないんですけど・・・
君、まったく理解していないな。
すみません。教えてください。
つまり、案件の規模にもよるが、落札できてる事業者は公示情報がでる前に様々な努力をしているんだよ。その取り組み内容で受注できるかどうかが決まるんだ。
民間企業向けと同じ取り組みが必要ということですね。
うん。でもね、熱心に営業活動をすればいいというわけではないんだ。詳しくはこの後、捉え方やすすめ方を解説するから最後まで読んでね。
仕様書策定から関わっていれば受注できる
客とだけ握っても受注できるわけではありません。特に仕入れや外注比率が高い場合は要注意です。
えー?提案が実っても受注できるわけじゃないんですかー?
時間と労力をかけて反映された仕様書でも、取り巻く関係者とコミュニケーションを密にしないと落札することはできないんだよ。
取り巻く関係者って、誰のことですか?
これは、非常に初歩的で、自治体に限ったことではないんだが。特に自治体においては、そこのセンスが求められるんだよなあ。
センス。ですか。。
提案活動以外にするべき点を後の項目でまとめておくよ。
自治体向け営業のいいところ
回収リスクがほぼゼロ
どんなに小規模な自治体でも解散することは考えにくく、支払いが滞る心配はありません。しかし、2000年代に事実上の税制破綻した夕張市のような事例もあるので定期的に財政状況を分析することをおすすめします。
情報が公開されている
民間企業では事前に把握することができない情報がたくさん資料として公開されています。いつ・どこから・いくらで購入したかなどを記した過去の入札調書を調べない手はありません。
財政状況に限らず施政方針や議会の状況がわかる資料を分析することで新規予算の状況が読み取れることができます。つまり、営業側の活動と歯車を合わせることができるわけです。
来るもの拒まない
事業者登録を済ませて参加資格を満たせば、どの企業でも容易に新規参入することができます。
裏を返せば、競争が激しいということになるわけですが、必ずしもそうではありません。大半の企業が、「儲からない」とあきらめていきます。ただ、なぜか事業者登録だけは毎回きっちり更新しているのが実態です。
別の視点では、来るものを拒まないというのは営業活動においてもある程度オープンです。自治体の窓口を訪れれば、誰かしら対応してくれます。
飛び込み訪問でもある程度話せる
「営業活動は名刺を置いてくるだけでよい」、「ダイレクトFAX送信が効果的」なんて話をしている情報があります。特定の商材や業界においてはそれでよいかもしれませんが、提案を要する案件においては「訪問」するのがベストです。
自治体は各部局ごとに窓口を設けており、だれがどこに座っているか目視できます。アポなし訪問でも礼をわきまえていればある程度話をすることができますし、タイミングがよければ担当者とそのまま面談できることもよくあります。
自治体への営業における課題
アプローチ方法がわからない
前項から書いているとおり、アプローチする際に特別なことはありません。
しかし、堅い印象がある自治体へは特別なアプローチ方法があるのではないかと考える営業パーソンも多いかと思います。
一言でいうと商材の性質や案件規模、自治体と自社との関係性を前提として「状況による」のが答えです。
そもそも本記事は、自社が入札に参加する事業者を前提として解説しているので、一番のオーソドックスなパターンは次のようになります。
- 経理部門へ挨拶訪問 → 窓口で名刺渡す + 資料を渡す
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※せっかく訪問するわけですから、入札を行う経理部門へも挨拶
※資料は会社概要と商材に関する簡単なアピール資料 - 担当部局へ挨拶訪問 →窓口で名刺を渡す + 担当者を確認
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※後日、あらためてアポ入れする前提で接する
※窓口に立つことで、部局内の雰囲気など状況をつかみやすい - 電話(もしくはメール)でアポ入れ
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※メールしてから電話もよい
担当者の変更が頻繁で困る
自治体は、いわゆる役所ですから定期的に異動します。あるいは異動はなくとも担当が変更する場合もよくあります。平均すると5年程度ではないかと思います。案件の進行中に担当者が異動することもしばしばです。後任者によって状況がひっくり返る事態を想定し、リスクに備えることも必須です。
また、せっかく関係構築できた担当者が異動になったとしても、マイナス面ばかりではありません。異動先でも間接的に思ってもみないファインプレーをしてくれることも珍しいことではないからです。
導入までに時間がかかる
緊急の場合を除いて、どんなに早くても予算取りから執行までは1~1.5年の期間を要します。大規模な案件については、5年10年といった長いスパンで要約予算付けされるのは当然です。
額面どおりに捉えると提案から受注までには上記程度の時間がかかり、当年度内に実績をあげるのは無理かもしれません。
しかし、仕込んでいる案件がなくても当年内に受注するチャンスはあります。他社が提示した予算見積りで予算付けされた案件を追いかければよいのです。どれだけ固まっている案件かによりますが、仕様書策定にかかわれれば十分間に合うタイミングです。
いずれにしても、会計年度におけるスケジュールは毎年一定で決まっているため、そのスケジュールに合わせて活動すれば見込みを読み間違えることはないはずです。
効率を上げるためにおさえておきたいポイント
案件をすすめるタイミングを逃さない
前項に説明したとおり、自治体では提案のタイミングが決まっていることが多いことがわかります。
適切な時に即した活動をしないと、期待していた結果が得られないばかりか、その期間を無駄にすことになりかねません。
そうならないためには、まずしっかりと予算に関する情報を把握することです。
予算組みに合わせたタイミングやスケジューリングについて解説
正確には、各自治体によって若干異なるため、平均的な内容で説明いたいと思います。また、そのパターンは毎年同じであるため難しいことはありません。
7月、予算編成方針が決まる
9月、各部局からの予算要求が締め切られる
10月~11月、要求内容が追加や変更がされる
12月、査定機関
1月、予算案が公表される
2月、議会に予算案が上申される
3月、予算案が議決される
翌年度の執行n月の前月までに仕様書が決定される
各部局からの予算要求が締め切られると、議会が開かれ審議が行われます。
審議の状況によって補正され確定されるため、議会の動向にも目を向ける必要があります。
なお、予算には経常的経費の一次予算と政策的経費の二次予算にわかれて審議および編成されます。新規事業などは二次予算に含まれるため、自社のサービスがどの予算枠に該当するか、いつどのように確定するのかを自治体担当者へ事前に確認しておくことをおすすめします。
後の項目で、時期に合わせて取り組む内容を説明したいと思います。
力をいれるべき自治体の優先順位を誤らないこと
冒頭にも記載したとおり、自治体には規模の大小や予算の有無など、状況が多様です。つまり購買力と余剰予算に差があるわけです。
ここで伝えたいのは、一律ではなく自治体によって力をいれる優先順位を決めておいた方がよいということです。
短期的な収支情報だけではなく、数年度に人口が増える要素があるかなど、自治体を取り巻く間接的な情報を加味して分析することです。それにより、結果的にチャンスを逃さない「勝てる営業活動計画」になるはずです。
なぜなら、先に説明したとおり、自治体向けに受注を増やし収益を上げるためには年単位の期間を要するからです。その着地に合わせた見極めや判断には十分に時間をとりよく検討することをおすすめします。
自治体向け営業、成功のために必要な情報収集と緻密な戦略
有力な競合他社が多い中、いかにして優位な状況をつくることができるかを考えるうえで必要な資料の分析や準備は欠かせません。この地ならしともとれる活動によって勝ち負けが決まるといってもよいです。可能な限り早期に閲覧する理由の一つに、中には対策に時間がかかる内容も含まれているためです。例えば、仕入れ先の変更を要する場合、取引や信頼の構築にはどうしても一定期間がかかるものです。「知るのが遅かった」ということがないようにしてほしいです。
自治体の情報収集方法
入札調書
ネットで確認することもできますし、庁舎の資料室でも閲覧や複写することができます。特に新規参入事事業者にとっては必須情報です。
いつどの事業者がいくらで落札しているか。落札率を見たうえで参加した事事業者名と入札価格バランスを分析します。数年前行われた結果を分析することで、同じ案件の入札が行われる際の参考にします。同じ案件の入札が行われる間隔はほぼ同じです。例えば5年ごとに行われていれば、さらに遡り落札状況を分析します。その際、落札者と参加者の関係性にも目配りする必要があります。一般競争なのにいつも同じ顔ぶれなのか、落札者は交互に決まった事業者か否か落札率の変動はどの程度かなど、特有のしがらみや難易度を推しかかることができます。
入札仕様書
どの事業者のどういった提案内容が受け入れられ、どの程度反映された仕様書なのかを分析します。これにより、自治体側からみた落札事業者への信頼度を伺うことができます。また、落札の内訳が添付されているので、自社において積算シュミレーションすることもできます。仕入れ物品があればその仕入れ先の傾向と対策に活用してほしいと思います。なお、自治体によっては資料が公開できない場合もあります。その際は、情報開示請求をすれば資料を取り寄せることができます。
事業計画書
各自治体が定めた事業計画書には、その自治体が今後数年間にわたって実施する計画事業や予算配分が含まれています。この文書を調べることで、自治体の優先事項や将来の投資計画について把握できます。場合によっては自社と協定などを結ぶことで、競合他社を退けて自社が中心的役割を担うことも考えられます。どこにビジネスチャンスがあるかわかりませんので、解釈や実現度合いを担当者に直接伺うこともできます。
予算案
各自治体が予算案を策定し、年度予算として承認することが一般的です。予算案には、各部門の予算配分、公共事業に対する資金配分、および自治体の財政状況に関する情報が含まれます。予算案を調べることで、自治体の財政状況や今後の予算配分について理解することができます。
条例や規則
各自治体は、自分たちが定めた条例や規則に基づいて運営しています。特定の業種や事業に関する規制について知ることができます。また、入札に関する条例や規則について調べることで、必要な入札書類や手続きに関する情報を得ることができます。
会議議事録
各自治体は、市議会や町議会などの会議を開催しています。これらの会議の議事録には、議員の意見や自治体が検討した問題についての詳細な記録が含まれます。これを調べることで、自治体の重点事項や将来の方針について理解することができます。代議士はその地域においては一定の影響力を持っているため、積極的に支援している企業も多々あります。機をみて情報交換をすることも有益かと思います。
都市計画マスタープラン
各自治体は、都市計画マスタープランを策定し、都市計画や土地利用に関する方針を示しています。この文書を調べることで、自治体がどのような発展を予定しているか、どのような事業が予定されているかを把握することができます。
自社サービスを取り巻く環境を分析する
先の項で自治体に関する情報収集でみえる現状を解説したので、ある程度の競合他社の状況も把握できるかと思います。そこで、自社が参入するにあたり、SWOT分析することをおすすめします。主には仕入れ先やパートナーの協力が必須な商材において、自社を取り巻く環境の分析は不可欠です。
なぜなら、競合他社よりも日ごろから懇意にしているパートナーであったとしても、こと自治体においては「話は別」になるからです。つまり、パートナーはすでに実績ある事業者を優先させるのが通例です。もしかしたら業界によってはそうではない業界もあるかもしれません。
※SWOT分析についてはこちらをご覧ください
入札に参加しなくても受注する方法
端的にいえば、参加資格はあるものの、入札には参加せず下請けで受注するということです。分析した結果、当面は勝ち目がないと判断された場合、すべてが無駄になります。ビジネスとしては賢明な判断といえます。しかし、一度下請けになると、将来に元請として入札に参加することは難しい状況になります。道義に反するとした悪い流言がなされる事例は多く存在します。直接とりにいくのか否か、企業としては非常に悩ましい経営判断といえます。
なお、同じ案件の入札に参加した者同士のいずれかが下請けになることは、多くの自治体で禁止されている、もしくは望ましくない行為として警告しています。不正行為とみなされると出入り禁止などのペナルティや刑事罰を受ける恐れがあるため注意しなければなりません。
地方自治体とのコミュニケーション方法と作法
自治体は多くの事業者と接しています。なかには無責任な事業者と取引して大変な思いをしたという実例は知見として組織に蓄積されているものです。その数は民間企業の比ではありません。したがって、出入りする事業者をみる眼は、たとえ担当者の経験が浅く見えていても、組織としての精度は高いと考え接したほうが賢明です。
コミュニケーションや作法といったものは、表面上のもので確かに大事なことかと思います。そこに営業パーソンや企業の体質が見え隠れしているものだからです。本質的には、この事業者は信用できるかという観点です。サービスがよいのは伝わった。しかし導入後、なにかトラブルになった際、誠実に対応してくれるのだろうか。という不安材料をどう解消するかを考えてほしいと思います。繰り返しますが、自治体の組織はこの観点を非常に重視しています。だから自治体やパートナーが、実績ある事業者を優遇したがるのはごく自然なことといえます。
この実績とは、なにも当該自治体だけが有効というわけではありません。他の自治体や民間企業における実績も有効です。
自治体へ営業する際の注意点
民間企業とは違い以下の点は、十分に注意した方がよいと思います。
- 庁舎内では、自社の紙袋やバッチといった自社だとわかる物品は控えたほうがよいかと思います。他社が警戒するようになるからです。
- パートナー候補への相談や情報交換は慎重にしたほうがよいと思います。懇意にしている企業でも、情報が競合他社に漏れるリスクがゼロではないからです。NDAを交わすことを推奨します。
- 営業の一環で、ノベルティやカレンダーなどを自治体に渡すことは避けた方がよいでしょう。直接渡すのはNGとしても、受付の無人カウンターに置いてくるのはOKとしている場合もあるので一概には言えませんが、未取引の場合は避けた方が無難です。
提案書の作成方法とポイント
運用設計や納入仕様書を取りまとめる自治体の担当者は、「失敗しないように」制度を構築していきます。「官僚的」というたとえ言葉にもあるとおり、自治体においてはリスク回避が最優先なのは改めて言うまでもありません。こういった考えの担当者の意向に沿い、且つ競合に勝つための提案書とはどのようなものかを説明したいと思います。
現状と理想の状態(リプレイスであれば「過不足」)のギャップを補うために必要な項目を明示します。次に、その項目を組み込む際のメリットとデメリットを示します。なお、この2点は自治体向けに限らず、営業の基本的なスキルです。
今度は、文章化する段階になります。自治体の担当者は、いいと思ったサービスの要件を満たせる表現と求めていないサービスを排除するための制約条件を織り交ぜて仕様書を仕上げます。しかし、対象を絞りすぎても不自然になる上、入札に参加する事業者数を満たせず不調になる懸念も考慮しています。
簡単な以下の例でも、随分とメーカーや事業者を絞ることができます。また、他社がそれを満たすためには、価格的に不利になる内容にすることが効果的なポイントです。
<ミネラルウォーター>
サイズ:高さ210mm未満
内容量:550ml相当
主成分:国産天然水
硬度 :10mg/l以下
梱包 :12本入り個装
キャップはロック機能を備えたフリップトップ式とする。
容器の総面積におけるラベルの比率は15%以下が望ましい。
営業パーソンは、強調したいポイントや表現方法を、伝えるというかわかってもらえるように提案するテクニックが問われる部分です。なお、この部分が曖昧になる点はどうかお察しいただきたい。
なお、RFPのような正式な提案を求める案件も増えてきていますが、選考過程をガチガチに固めることは、なにも事業者だけが嫌うものではありません。自治体担当者といっても生身の人間ですから、ある程度関係構築できた融通がきく事業者に依頼したいのが本音なのです。
※営業の基本についてはこちらをご参考にしてください
自治体向け営業における競合との差別化
競合他社とどのように差別化すれば受注することができるか。こう悩んでいる営業パーソンは多いに違いありません。しかし、差別化によって優位に立てるのかもしれませんが、それは途中経過にすぎません。受注、つまり落札できるかどうかは別問題なのです。反対に、途中経過はどうあれ落札できればそれが実績になるわけです。勝ったものが強いという考えです。
まず、これまでの各項の説明において、いかに受注するまでに時間を要するかを伝えてきました。また、より確実で短期的な実利重視するなら下請けを狙う考えとデメリットを紹介しました。
ある程度の期間をかけても直接受注し利益も確保したい人に向けて、説明していきたいと思います。
勝てる仕組みを構築するポイント
自治体の攻略は、限られたパイを奪い合う国盗り合戦のようなものです。戦国時代を例にすると、名乗りを上げた武将が領国を得るためには戦いに勝つことです。弱小武将が戦いに勝つために手っ取り早いのが、敵の敵と組むことです。問題は、相手方からの組むメリットを用意するのはさることながら、組み方や敵の敵という真偽を見極める点です。勝ちたい敵の武将が争う敵が、争っているようにみえても実は裏で組んでいることもあります。
もう一つの戦略は奇襲です。織田信長さんのように少数精鋭が大軍を返り討つ事例は山のようにあります。晩年の信長さんは同じく奇襲でやられてしまったわけですけれども。ともあれ、奇襲が功奏するのは共通点があります。それは、相手が「油断」しているときです。
どういった戦略であれ、その判断するための「確かな情報」と「正しい選択」が決め手になることを強調したいと思います。
攻略する自治体を絞る
会社にも性格があります。地域性なのか伝統なのかわかりませんが、自治体にもそれなりの性格の違いが歴然とあります。自治体の規模や地の利も大事なのですが、会社とながく付き合えそうな自治体を対象とするのもよい選択かもしれません。自治体だけではなく自社が受注したい案件の規模が労力にみあうかどうかを見極めていただきたいと思います。
また、本庁からではなく、取引できそうな外郭団体から攻略することもよい選択かも知れません。
絞った自治体の取り巻く環境を徹底分析
事業計画や収支から議会と本庁の関係性など、大きい案件ほどキーパーソンが多く存在します。また、そういった人と人の関りからビジネスが生じるのは民間だけではありません。中には、自治体関係者でもなければ事業者関係者でもない人物がキーパーソンだった、とういうレアケースもあります。天の声・地の声といった、どうしようもない案件事情に遭遇するようなものでしょう。
いずれにしても、「地元の事業者を育てたい」といって、地元の企業を大事にするのが自治体の姿勢であることは、それが建前であれ本音であれ事実です。
競合の周囲を攻略
大きい案件ほど、自社だけでは入札に勝てません。たとえ強引に落札できたとしても、パートナーが協力を拒んで契約不履行になった事例は少なくありません。資本関係があるグループ会社で役務をすべて賄えたとしても、内訳にある物品を調達できないことを想像したら恐ろしいことです。見方によっては、発注者である自治体以上に気を遣うものではないでしょうか。長期間その自治体を相手に安定収益を生むためには、この協調戦略を選択する以外にありません。
ではどのようにしたら自社の強力な体制を構築することができるのか。競合他社の体制を崩せるのか。信頼するのは会社ではなく人です。その一人の営業パーソンをみて会社が見える一方で、会社をとおしてしか見えない営業パーソンは価値が低いものです。「強調戦略は互恵関係で成立し維持」されます。実績がない営業パーソンから得られるメリットはなんでしょうか。
弱小で実績がない織田信長さんに自らの娘さんを嫁がせ、同盟まで結んだ斎藤道三さんは織田さんに「先行投資をした」と解釈すればイメージがつきやすいでしょうか。おそらく織田さんは斎藤さんに何らかのコミットを宣言し斎藤さんはその気迫と決意に応じたのではないかと私個人的には推測します。
競合他社に勝つための戦略ポイント
いないよりはマシとはいえ、やすやすと崩れさるようなパートナーでは頼りなく継続性がありません。攻撃する体制を構築しつつ崩されない整備も同時に考える必要があります。
また戦国の例をだして恐縮ですが、戦国最強とうたわれた武田信玄さんは、部下である武将をフランチャイズのように抱え込んで強さを引き出したといわれています。一方で、容易に他国から攻められにくい理由は、縦深性があったからです。本拠地とした長野県は深い山間が広範囲に存在するという地理的な優位性です。いうまでもありませんが、それは現代において本社を長野県に移転することではありません。あくまでも考え方を基調にしてほしいための例えです。
余談ですが、戦国というと「信長の野望」というゲームソフトのように、すべての武将が天下をとろうとするイメージがあります。そもそも天下とは、京都を中心とした近畿6国を指したもので、日本全国ということではないのです。その天下を狙った武将はごくごく一部の武将のみで、武田さんも自国の領国を少しでも増やそうとしたにすぎません。なお、武田さんと上杉さんが十数度も川中島で合戦をした動機は、観光収益がある善光寺の利権であるとの説がありますが、私個人的にも同じ見方をするものです。
自治体向け営業における法律的な注意点
近年、コンプライアンスを重視する流れは一段と強まっています。あらゆる分野でその規範は一定程度定着してきていると思われます。しかし、表面化しないだけで、法令違反が根絶する気配がないのも周知の事実です。規模は違えどもオリンピックにおいても、広範囲にわたって多数の不祥事が明るみになりました。そこには、明確に黒でなければ、グレーは白と捉えてしまう慣習に要因の一つがあるように思われます。
営業活動を行う際には、各種法規制を遵守し、透明性と公正性を重視した取引を行うよう努める必要があります。また、地方自治体ごとに異なる法規制や独自の規定が存在する場合もあるため、自治体の規程を確認することも重要です。
また、自身は法令遵守しても関係者からの打診には毅然とした態度を示す必要がありますし、知らないうちに巻き込まれないための十分な警戒も怠らないよう願うものです。