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情報収集と分析で示唆や洞察を得る
情報収集と分析|見えないものをみる力
問題解決は知的生産である以上、顧客との情報格差を用意しないと提案に価値を感じません。提案あるいは説明を行った顧客に対して、その根拠となる事実は何か。その事実としての情報を提示するための調査は必要要件です。
先ほどから、情報収集は必要最低限のみ集めるようにすることと、その意味を伝えました。「あれもこれも」と情報を広げることは必ずしも無意味ではありませんが、とりわけビジネスにおいては早い段階から無駄だと気づくことが大切なのです。その気づきを促すのが仮説思考プロセスにあることを述べました。
仮説を補強するために情報収集を行い、気付きを得るための分析であると理解していただきたいと思います。実際の現場では、単なる情報をエクセルに打ち込んでピボットで統合し、グラフで表示させて終了している場合が多く散見されます。「こんなの作りました」と、「カタチ」をアピールして「解釈ご自由」にしている状態です。頑張っている姿を評価対象としている組織文化の企業でよくみられがちです。
本来は分析を行うことで、規則性や特異点を見出せすことができます。その気付きを言語化することが論理構成なのであります。
情報を収集するベクトルは時間軸と空間軸です。どのような経緯を経ていまの状態に至っているのか。あるいは、社内ではなく他部署やマーケットに問題があるのではないかと広げるようにイメージします。
また、情報には加工された情報である二次情報と生の一次情報(ローデータ)とがあります。一般化された二次情報と違い、一次情報はオリジナル性が強いことからその価値(信ぴょう性)が高いことがわかります。営業パーソンが「現場で情報を得る」ことがいかに貴重であるかを教えられるのはその点にあります。一次情報は「伝言ゲームの発信元」とイメージすればわかりやすいかもしれません。
打ち手が見出せなければ現場に赴いて感じ取ることです。営業は「壁の向こう側」を読み解く能力が求められます。顧客の現場ではなにが起きているのか、と推察するのです。顧客を接待することで本音を引き出すのは、見えるものだけを見ようとしているからです。だから、いかに顧客の本音を引き出せるか、というテクニックのみが先行されてしまうのだと考えています。
生態学者の宮脇昭氏がドイツに留学した際、ラインホルト・チュクセンという教授に言われた言葉を紹介します。
「現代人には二つのタイプがある。見えるものしか見ない者と見えないものを見ようと努力するタイプだ。ミヤワキ、君は後者だ。現場が発しているかすかな情報から見えない全体を読み取りなさい。」
情報収集や分析は選択肢を狭めるためにある
一般的な情報源はネット検索や書籍、データバンクといった媒体がすぐに思い当たります。少なくとも担当している領域に関する統計情報などは事前に習得しておくべきです。各省庁が毎年発行している白書などは容易に手に入る「確かな」統計媒体です。
情報収集は仮説を補強することが目的と述べましたが、それは同時に意思決定を迅速に行うためでもあります。情報収集の空間軸を広げず、いかに絞り込むかという観点を忘れないでいただきたいと思います。つまり、今ある「選択肢をいかにして狭めてくれる情報収集」が有益だと言えるのです。
情報過多である昨今、偽情報が横行しています。「この案件に適した正しい情報はなにか」、という観点でとらえていく必要があります。同じテーマでも真逆の意見で結論されている媒体もあります。どちらの情報が正しいのかわからない場合は、自身の審美眼ともいうべき判断軸が求められます。
分析は意味や洞察を引き出すことが目的だと述べましたが、優先順位をつけることでも役に立ちます。
問題解決のクリティカルパス上で重要なのは、最初にノックアウト分析をするということです。
ノックアウト分析とは、「この要素があったら何をしてもすすまない」という事柄を見つけて検討の遡上から排除することです。
次に重要だと思われる分析を行い、最後にはやれたらいいなという分析をする流れに進めるのが一般的です。
根本原因分析は、問題の要因を可視化するために使われ、フィッシュボーン図ともよばれます。これは、原因が分岐することからそのような表現になっていると理解するとよいでしょう。
複数の条件がついた問題を分析する際は、ベイズ統計分析が有効です。これは、不完全な状況下で条件付きに確率を評価する方法として役に立ちます。
ゲーム理論の活用は、競合他社の出方によって戦略を策定する際に有効です。これは、自分の行為が他のプレーヤーに影響を及ぼしたり受けたりすることを示すことができます。
情報収集と分析を行う際は、論点を絞ったうえで必要最小限に行うことが重要だと述べました。
しかし、答えありきで情報収集や分析を行うと、その仮説を立証したいと意地になっては元も子もありません。そういった確証バイアスを回避するためには、「何のために」という問いを常に持ちつづけることです。手段と目的を混同しないように注意する必要があります。
また、メタ認知で自身が見ているフィルターを解除する習慣が大切だと思うのです。
一人で考え込まずに、確かな結晶性知能がある先輩や同僚に相談することも他人の「他人の靴を履く」という演習になります。自己の常識や習慣を相対化することをお勧めします。
論点整理と優先順位づけで不測に備える
論点を整理することは剪定すること
問題が洗い出されたらカテゴリ分類します。問題要素を因数分解するように単純化して整理します。
場合によっては問題を分析用のパーツに分類し対立仮説を設けたり、そのいずれがより優れた洞察をもたらしてくれるかを確認します。先に紹介したフレームワークである「ロジックツリー」と「MECE」をベースにして論点を整理します。論点を構造化することは、深く掘るべき論点を分解し、ツリー構造に整理することです。これは立てた仮説を検証していく作業であり、階層と因果関係で全体像が定義されていくものです。
立てた論点は、表層的な事象ではないのか、原因となる他の要素があるのではないか、と考える批判的思考とも言えます。
また、「それは本当に問題なのか」を問い、「実行可能なのか」あるいは「どれを優先するべきか」を明確にするのが目的です。言いかえると「絞り込む」「捨てる」ということです。つまりは「剪定する」作業そのものなのです。剪定することでより本質を浮かべることができます。
「明確に定義された問題は、半分解決したも同然」といわれているとおり、問題を正しく定義できなければ時間を無駄にし顧客の投資を毀損することに直結します。
問題定義をより強固にするためには、アンチテーゼや反証で脆弱点をそぎ落とします。顧客の反応や競合の出方に応じて剪定することです。筋の善し悪しを見極めることがポイントといえましょう。
実際の現場では、「あれもこれも」と論点を広げてすべてを解決することは困難です。一人でするなら結構ですが、熱量格差があるメンバーや協力者から「もうやってられない」といわれるのがオチでしょう。
問題解決は、実行して効果を得られなければ全く意味がありません。実行においては、「より少ない労力で、より大きなリターン」が見込める論点に絞る必要があります。いつしか薄れていく「だれにとっての問題なのか」「何のための問題のか」を、常にトピックとして掲げていないと筋の悪い問題解決になってしまいます。
論点をより強固にするために、自身の脳内で批判することをおすすめします。自身が立てた仮説に自身がケチをつけることで道筋の脆弱性が浮き彫りになります。慣れるまでは紙に赤字で書き出す癖をつけていただきたいと思います。
例えば、「Aが論点というが、それをするには〇〇が懸念される」とか「Aを実行した場合、反作用として生じる△△をどう解消するか」などと批評することで、その反論を用意することでリスクとメリットの差分がどの領域でどの程度生まれるかを把握することができます。つまり、論点は対立軸があったほうがより鮮明に浮かび上がってくるのです
論点は常に変化するものと認識する
問題の論点が整理されたら、それで確定でいいのではないかと思われますが、ここに机上のシュミレーションどおりにはいかないことがビジネスの面白さであります。
「これが問題を解決するための論点だ」と決めたとしても、状況によって論点は変わるということです。時間の経過とともに問題の優先順位はかわるのです。論点には可変性があるとういうことになります。
それは、オーダーする顧客自身の変化もありますし、顧客の社内での変化、競合の動向によっても変化せざるを得ないことも珍しくありません。複雑で広範囲に及ぶ問題に比例して登場人物が増えてきます。
つまり、パラメータが増えるにしたがって不確実性が高まるということです。
顧客個人の意図や背景を考慮することが重要です。解決するべき課題の論点が、顧客自身にとって都合の悪いことだとしたらどうでしょうか。
例えば、顧客である営業部長Aが人事異動によってライバルである営業部長Bと交換移動になった場合、後任者に”ありがたいお土産”は置い移動しない人がいます。会社全体の利益よりも自身の利益を優先するのは、よくある残念な現実です。ここでも問題を文脈でとらえる重要性を感じていただけたのではないでしょうか。
論点はあくまでも「その時点における」顧客にとっての問題であって、外的要因や内的要因によって影響を受けて問題意識や優先順位が変動するということなのです。人の志向性や本質を見抜く力が、先を読むことにつながるのです。
それは決して特殊な場合ではなく、常に変動するものだと頭の隅に置いておくべきものなのです。
そのためには、現場を訪問したり顧客と面談することでいつでも修正することができます。現場感覚がない状態で聞いた話や調べた資料だけで判断することは賢い選択とは言えないのです。
一定期間、「動く論点」に向き合うと軌道が見えるようになります。その軌道確度から〇〇か月後の状態がある程度は予測できるはずです。
顧客との面談において、論点の仮説を相手に提示して反応を見ることはとても有効ですし、さらに質問を重ねて新たな発見も期待できます。その時に意識してほしいのが、「その問題の背景はなにか」という視点の意識と「なぜそこにこだわるのか」という違和感を検証することです。「顧客の靴を履く」という視座を変えることによって顧客の真意がみえてくるといえます。
また、顧客自身が問題が起きている現場をしっかり把握していないケースもあるため、現場に足を運んで虚心坦懐に観察する手間をおろそかにしてはいならないということです。なぜなら、現場での情報は貴重な一次情報だからです。
目的地と中継地点を全体像で計測する
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問題の本丸を攻略するために、まずは支城攻略から取り掛かることがよくあります。問題解決の実行段階における優先順位のつけ方と実行後に起こりうる反作用を想定することを紹介します。
2016年、Apple社はiPhone SEを販売しました。スマートフォンはSamsungの台頭もあり、廉価で性能も高くコンパクトなサイズを求めるユーザーを取り込もうとしたわけです。ところが、SEの成功がかえって「高価格帯モデル」の売上を一部奪ったカニバリゼーションが起きたのです。
このApple社の事例から読み解けることは、できるだけ高いレベルで問題を解決する思考が重要だということです。局所的な解決案は全体最適ではない場合が多いのです。
あってはならないのが、「手段を目的とする」という点です。ロジックツリーに示されたように、現場では問題の本質である大論点を解決するために、枝葉である中・小論点を解決する場合が殆どです。この枝葉の解決に取り組み始めると、大論点である本質を見失う傾向があります。常に「何のために」という問いを堅持することを留意していただきたいと思います。当然ながら、本質の解決に莫大なリソースを要する際は、外堀を埋めるように枝葉から解決する事例は数多く存在します。
例えば、大手術を控えた患者が合併症をもっている場合に、医者はいきなり大手術からは始めるのではなく、「まずは食事療法などで〇〇の数値を正常化する」ことと同じような考え方なのです。
「鳥の眼でとらえる」「虫の眼でみる」という意識をもつとイメージがしやすいのではないかと思います。「木をみて森もみる」ということです。
解決するべき中・小論点が複数ある場合、重要な論点がわからなくなって手を付けられなくなってしまうことがあります。属する領域が広範囲になるにしたがって、リソースの配分も複雑化します。細分化された論点は、優先順位をつけないと結局「あれもこれも」と問題を解決できなくなってしまいます。実行されず、問題が解決されなければ、それまでの労力は無に帰すどころか受注未達であれば赤字です。
問題は難易度が低いものから解決することが常識とされていますが、難易度の高い問題の頭出し(種まき)を先にすることもあります。
料理をする順序と同じです。パスタを作る際、時間を要する「お湯を沸かす」ことから始めるはずです。その間にスパイスの用意や添え物を切り分けることが効率的です。もっと大切なことは「何を作るか」を最初に決めることです。
優先順位付けするための要素は、「重要性」と「緊急度」で決まります。まず始めに取り掛かるべきものは何なのか、そのためには何を準備し用意することは何なのかを期限を決めたうえでシュミレーションすることが何よりも重要です。不測の事態はつきものです。どの問題解決フェースにおいても、余力(バッファ)を確保しておくことをおすすめします。
難しいのは、何が重要で緊急を要するかは、その顧客ごとに異なるということです。顧客の志向性やそれを取り巻く環境、競合他社を留意したうえで完璧を期すことは容易ではありません。登場人物が多いケースでは、いつどこでどのような不測の力学が生じるかはわかりません。過去のパターンを参考にすることが意思決定のスピードを推し進めます。経験がない場合は、他者の知恵を借りることをおすすめします。前任者や上長含めた関係者がそれにあたりましょう。
また、自社内の知識や業界の事例だけではなく、ビジネス外の知見を豊富にしておくことで「類推」(アナロジー)が発揮されます。これは様々な業界におけるイノベーションの歴史をみるとその優位性は明らかなのです。
最後に伝えたいことは、顧客の期待値を調整するということです。問題のオーナーは顧客である以上、顧客の要望に応えることが目的です。顧客は、問題が解決さえすればそれで満足するか、答えはNO!です。
それは、いつまでに解決したいのか、必要な予算はどの程度見込んでいるのか、費やされる労力も見込んだうえで決裁されているからです。
問題解決者は、高品質なだけでは顧客を満足させることはできません。プロジェクトが失敗して炎上する人が散見されますが、これは顧客との期待値設定を誤ったことが原因です。プロジェクトの終盤になって、「予算がなくなりました」「納期に間に合わなくなりました」「達成できそうにありません」などと報告された側は、「なぜもっと早く言わないんですか」と、後手になった理由から聴取されることになります。
仮定の話ですが、130円の缶コーヒーを購入して130円の缶コーヒーの品質なら満足度はフラットです。購入した130円の缶コーヒーがドリップコーヒーの品質だった場合の満足度は加点されるでしょう。反対に、コーヒー専門店で450円のコーヒーが130円の品質だった場合の満足度は減点になるはずです。
プロジェクトの進行中に当初合意に変動が生じた際は、その都度認識合わせをして「顧客の期待値を調整する」ことが基本行動になります。「悪い情報ほど早く相談する」ことです。